地元紙総合欄に「時代を読む」というコラムがあり、世界金融危機について、月刊誌FACTA編集長阿部重夫氏が述べていらっしゃいましたので、そのまま引用させていただきます。
『ヤブ医者ほど罪なものはない。これぞ頓服と銘打ちながら、とんだ劇薬で病人を死地にさまよわせる。全世界を覆う金融危機を封じこめようと、大胆な処方箋がいくつも提示されたが、もっと筋が悪いのは「時価会計の凍結」だろう。
時価会計とは、企業が保有する金融資産を期末時点の流通価格で再評価するもの。1億円で買った株式が期末に半値に下がったら、5千万円の損を計上する。購入した時点の株価(簿価)で計上していると、時価との差額が常に「含み損」「含み益」になるから、時価会計のほうが実態を反映して企業財務の健全性に資するとされてきた。
ところが、サブプライム関連証券化商品の市場“蒸発”で米国が心変わりする。難産の末に成立した金融安全化法には、証券取引委員会(SEC)に凍結権限を与える条項が盛り込まれ、投げ売りの価格を正常取引とは認めないなど基準緩和の指針を打ち出した。
欧州でも、国際会計基準を採用する欧州金融機関が米国情勢に比べて不利にならないよう、国際会計基準審査議会(ISAB)が、いったん「売買目的」とした投資有価証券でも満期保有の証券に分類を変更、時価を決算に反映しなくても済むようにした。
米欧のご都合主義にはあきれる。日本がバブル崩壊後の「失われた十年」に時価会計導入の遅れをいやというほど指摘されたことは記憶に新しい。それがいざわが身に累が及ぶと、あっさり原則を覆す。時価会計は政治の所産か、と疑われてもしかたがない。
しかし、もっと情けないのは日本の経営者だろう。それみたことか、と一斉に時価会計の骨抜きに走りだした。10月15日、中川昭一・財務・金融担当相は金融機関トップと会談、その場で横浜銀行の小川是頭取らから時価会計停止を要望され、金融庁に保有区分の見直しなど基準変更の検討を指示している。
天を仰ぐほかない。経団連はじめ日本の経営者の間で、時価会計は経営のノリシロをなくし、長期安定経営を損なうとの警戒心が強い。うかうかと国際会計基準を採用すれば海外から買収の魔手が伸びてくると、蛇蝎のごとく嫌っている。
だが、これはあくまでも「買われる側」の論理。買われたくないから、本当の姿を見せたくない。しかしサブプライムで傷の浅い日本は今後、たたき売りされる米欧企業を「買う側」に回る。買い物が「ヤミ鍋」では困るのだ。ここは逆手をとって、米欧に時価会計を迫らないと、とんだ高値づかみをさせられる。
良い例が三菱UFJだろう。モルガン・スタンレーの少数株主になるために、資産査定なしで9千億円もはたいた。10年前に破たんした日本長期信用銀行でも分かるとおり、かつてハゲタカに裸にされた日本は、今度は「逆ハゲタカ」で相手を裸にする番なのだ。
でなければ、この千載一遇のチャンスを活かせない。天下りの元大蔵事務次官である小川頭取にはその機微が分からないのだ。地域経済の沈下とともに優良貸出先が乏しい地方金融機関は、有価証券に資金運用をシフトさせてきた。だが、日経平均が8000円割れ寸前まで一時急落して浮き足だった。地銀などは、地元取引先との持ち合い株を多く保有している。それが軒並み評価損では経営責任に直結するからだ。
例えば2年前、王子製紙の敵対買収(TOB)を受けた北越製紙。1株860円のTOB価格だったが、607円での第三者割当増資に応じた三菱商事など持ち合い株のスクラムで防衛した。今北越株は300円台。TOBに応じなかった第四銀行などは逸失利益をどう株主に説明するのか。似たような例は全国に無数にある。
金融機能強化法改正による公的資金の資本注入と時価会計凍結、さらに自己資本比率規制緩和という「イチジクの葉」で、地域金融機関は当座をしのごうとしているにすぎない。だが、隠せば隠すほど疑心暗鬼は募る。「直前にOB杭を移動」させた9月中間期決算を、市場の誰が信用するだろうか。
持ち合い株という“塩漬け”リスク資産を圧縮しない限り、地銀の中小企業向け融資の貸し渋りや貸しはがしの根本原因はなくならない。それが「失われた十年」の教訓ではなかったか。その教訓を忘れたヤブ医者ばかりが、中川財務・金融相の耳にエセ療法をささやいている。金融庁よ、しっかりせい!
あべ・しげお 1948年東京生まれ。東大文学部卒。日本経済新聞金融部、欧州総局編集委員などを経て98年英国ケンブリッジ大客員研究員。雑誌「選択」編集長、2005年ファクタ出版社を創業。』
『当座をしのごうとしているに過ぎない』。。。それでは困るのだ。後期高齢者医療の問題、介護保険制度の見直し。暮らすには『安全』が保障されるべき日本にあって、経済がこんな状況では不安は募るばかり。と、庶民は働けど働けど。。。の状況からは逃れられないでいる。まだ、お給料がいただけるだけマシということなのかなぁ。そのために、休みの日は思う存分英気を養って。。。というしかないのかなぁ。
『ヤブ医者ほど罪なものはない。これぞ頓服と銘打ちながら、とんだ劇薬で病人を死地にさまよわせる。全世界を覆う金融危機を封じこめようと、大胆な処方箋がいくつも提示されたが、もっと筋が悪いのは「時価会計の凍結」だろう。
時価会計とは、企業が保有する金融資産を期末時点の流通価格で再評価するもの。1億円で買った株式が期末に半値に下がったら、5千万円の損を計上する。購入した時点の株価(簿価)で計上していると、時価との差額が常に「含み損」「含み益」になるから、時価会計のほうが実態を反映して企業財務の健全性に資するとされてきた。
ところが、サブプライム関連証券化商品の市場“蒸発”で米国が心変わりする。難産の末に成立した金融安全化法には、証券取引委員会(SEC)に凍結権限を与える条項が盛り込まれ、投げ売りの価格を正常取引とは認めないなど基準緩和の指針を打ち出した。
欧州でも、国際会計基準を採用する欧州金融機関が米国情勢に比べて不利にならないよう、国際会計基準審査議会(ISAB)が、いったん「売買目的」とした投資有価証券でも満期保有の証券に分類を変更、時価を決算に反映しなくても済むようにした。
米欧のご都合主義にはあきれる。日本がバブル崩壊後の「失われた十年」に時価会計導入の遅れをいやというほど指摘されたことは記憶に新しい。それがいざわが身に累が及ぶと、あっさり原則を覆す。時価会計は政治の所産か、と疑われてもしかたがない。
しかし、もっと情けないのは日本の経営者だろう。それみたことか、と一斉に時価会計の骨抜きに走りだした。10月15日、中川昭一・財務・金融担当相は金融機関トップと会談、その場で横浜銀行の小川是頭取らから時価会計停止を要望され、金融庁に保有区分の見直しなど基準変更の検討を指示している。
天を仰ぐほかない。経団連はじめ日本の経営者の間で、時価会計は経営のノリシロをなくし、長期安定経営を損なうとの警戒心が強い。うかうかと国際会計基準を採用すれば海外から買収の魔手が伸びてくると、蛇蝎のごとく嫌っている。
だが、これはあくまでも「買われる側」の論理。買われたくないから、本当の姿を見せたくない。しかしサブプライムで傷の浅い日本は今後、たたき売りされる米欧企業を「買う側」に回る。買い物が「ヤミ鍋」では困るのだ。ここは逆手をとって、米欧に時価会計を迫らないと、とんだ高値づかみをさせられる。
良い例が三菱UFJだろう。モルガン・スタンレーの少数株主になるために、資産査定なしで9千億円もはたいた。10年前に破たんした日本長期信用銀行でも分かるとおり、かつてハゲタカに裸にされた日本は、今度は「逆ハゲタカ」で相手を裸にする番なのだ。
でなければ、この千載一遇のチャンスを活かせない。天下りの元大蔵事務次官である小川頭取にはその機微が分からないのだ。地域経済の沈下とともに優良貸出先が乏しい地方金融機関は、有価証券に資金運用をシフトさせてきた。だが、日経平均が8000円割れ寸前まで一時急落して浮き足だった。地銀などは、地元取引先との持ち合い株を多く保有している。それが軒並み評価損では経営責任に直結するからだ。
例えば2年前、王子製紙の敵対買収(TOB)を受けた北越製紙。1株860円のTOB価格だったが、607円での第三者割当増資に応じた三菱商事など持ち合い株のスクラムで防衛した。今北越株は300円台。TOBに応じなかった第四銀行などは逸失利益をどう株主に説明するのか。似たような例は全国に無数にある。
金融機能強化法改正による公的資金の資本注入と時価会計凍結、さらに自己資本比率規制緩和という「イチジクの葉」で、地域金融機関は当座をしのごうとしているにすぎない。だが、隠せば隠すほど疑心暗鬼は募る。「直前にOB杭を移動」させた9月中間期決算を、市場の誰が信用するだろうか。
持ち合い株という“塩漬け”リスク資産を圧縮しない限り、地銀の中小企業向け融資の貸し渋りや貸しはがしの根本原因はなくならない。それが「失われた十年」の教訓ではなかったか。その教訓を忘れたヤブ医者ばかりが、中川財務・金融相の耳にエセ療法をささやいている。金融庁よ、しっかりせい!
あべ・しげお 1948年東京生まれ。東大文学部卒。日本経済新聞金融部、欧州総局編集委員などを経て98年英国ケンブリッジ大客員研究員。雑誌「選択」編集長、2005年ファクタ出版社を創業。』
『当座をしのごうとしているに過ぎない』。。。それでは困るのだ。後期高齢者医療の問題、介護保険制度の見直し。暮らすには『安全』が保障されるべき日本にあって、経済がこんな状況では不安は募るばかり。と、庶民は働けど働けど。。。の状況からは逃れられないでいる。まだ、お給料がいただけるだけマシということなのかなぁ。そのために、休みの日は思う存分英気を養って。。。というしかないのかなぁ。